『薬の9割はキミで出来ている』〜孟花
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「見つけた、花ちゃん」
回廊を歩いていた彼女は、よく聴く声に後ろ髪を引かれた。
「何かあったんですか?」
間違いなく仕事のある時間に声をかけてくることは、多くない。
「うん、ちょっと気分が良くなくてね」
少々やつれ気味の表情が、柔和な笑みを浮かべる。
「じゃあ寝てなきゃですよ」
「それよりも・・・・」
実際具合が良くないなら医師を呼んで、安静にするのが一番だと進言しようとすると。
彼は間を詰め腕を伸ばしてくる。
幾重にも重ね着した胸板と、武骨になりきれない腕が彼女を挟み込む。
「こう、したいんだ」
事後承諾に、身を寄せて抱きしめる。
彼女が苦しくならない程度の空間を留めると、後は隙間なく際限なく、吐息が髪に掛かるまで頑なに堪能する。
「孟、徳さん?」
彼女は回廊の間中で有無言わさずの抱擁に、喜んでいいのかと戸惑う。
「雨の時期は憂鬱になっちゃってさ、和ませて」
はぁ。と息を吐くと、ようやっと理由を述べる彼。
「それは・・・いいですけど、お仕事になりませんよ」
いつものことと寛容な彼女は了承、でも日頃いつも仕事が山のようにある彼にはゆっくりする時間がなかなか取れないのも事実。
「大丈夫、元譲も文若もいるんだし」
「そうですけど」
有能な部下に頼む・・・というより投げやり気味に言い放ち、すりすりと彼女の髪に頬擦りをする。
「ねぇ花ちゃん?」
「何ですか孟徳さん?」
三十路の偉い大人が途端に子供に成り代わり甘えてくる。
自分だけ見せる甘え方に彼女の頬が緩む。
「今日君の部屋に泊まっちゃダメ?」
「・・・え///」
実際の子供になら肯定できるそれを深読みし、彼女の笑顔が固まった。
「まだしないよ、でも温もりを感じたいんだ・・・」
「・・・はい」
何をするのかは濁したまま、彼は素直に彼女を求める。
そしてそれには彼女も否定しなかった。
それを確認するやいなや、彼は腕から彼女を解放すると気力を補充したのが目に見えて分かるほどに目を輝かせた。
「じゃあその為にも仕事早めに終わらせないと」
「頑張って、くださいね」
「うん。君の元へ行く為なら、頑張れるよ」
新婚の出勤前のような応答。
彼は意気揚々と胸を張る、それを見た彼女はフォローのつもりかひと言付け加えた。
「でもまた辛くなったら、呼んでください」
「うん?」
「次は私が抱きしめます」
予想だにしていなかった言葉はすこん、と頭にぶち当った。
「・・・仕事がめちゃくちゃはかどりそうだよ」
暫しの休憩のつもりが、ブーストを背負わされ燃料を漏れるほど投入され、あまつ気流に乗せられたかのような気持ちになる。
その日の仕事のこなしっぷりは、後々文官の間で伝説となったのは言うまでもない・・・